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能楽美術館ってご存じですか
金沢市には能楽美術館がある。多分全国でもこの手の美術館がある県は
ないのではないか。
その施設は当薬舗から兼六園に向かって歩いていくと、約5分位のところ、
21世紀美術館の手前にある。
「秘すれば花」と言われる能の世界。室町時代に世阿弥は世話物の猿楽を
発展させ、武家社会に深く入り込んで、夢幻能から幽玄の芸能として芸術性
を高めた。古典文学を題材にして高い格調性を伴っており、各派が競合する
中で幕末まで広く武士の教養としてたしなまれてきた。
金沢では宝生流が主流となり加賀宝生とも呼ばれるようになった。
加賀藩前田家が推奨したこともあって、武家の間では必修の科目として、
町人の間でも教養を高める習い事として広く定着していった。
一時は「謡がふる街」といわれるほど、一般人にも広く伝播されていた。
私も学生時代から社会人にかけて6年間位習ったことがある、当時、京都
での発表会にまで参加したくらいだからそれなりに練習していたに違いない。
面白いというよりは金沢人の教養かなというぐらいに考えていた。
今回、美術館を訪ねてみようと思ったのは加賀宝生のなかでひと際輝く
中野家に関する資料展示が行われているということを耳にしたからである。
明治になってからも政財界や地元金沢の経済人の間でも謡は広まり、
紳士がたしなむ能楽として発展していったのである。実業家のなかには
能装束や能面などを自ら所蔵し、奥義を極めようとした人達も出てきた。
中野武営や長男岩太らはその一角をなした人で、金沢の能楽文化にも
甚大な功績をし、大きな足跡を残したといっても過言ではない。
一時期にはあの美貌の歌人・柳原白蓮(NHKの朝ドラにも取り上げられた)
が親しく身を寄せていたこともあるくらいに隆盛を極めた家柄でもある。
この中野家の所蔵品の展示会が令和4年11月13日(日)まで能楽美術館
において開催されている。
ぜひ、この機会に数々の貴重な展示品を鑑賞してもらいたいものである。
これは余談であるが、市川崑監督・映画「天河伝説殺人事件」はあの吉野
の天川村を舞台にして歴史と伝統ある能楽一家の頂点に立つ家元をめぐる
激しい争いが主軸。有名女優岸恵子の演技、俳優榎木孝明の名探偵や活躍
と相まって秀作のできとなっている。
薬草トリカブトを煎じ詰めて、能面の裏にそれを塗り、その塗りつけられた
トリカブトエキスを能役者が舐めて死に至るというストーリーである。
トリカブトはアコニチン・アルカロイドが主成分で生薬名を附子(ぶし)
といい、昔は塩漬けにして塩附子(えんぶし)、焙じて炮附子
(ほうぶし)として利用された。現在は加工ブシ末として販売もされている
が現植物のヤマトリカブトは毒草である。